小説が好きな方、更に小説を自分で書かれたりする方はよくご存知と思いますが、小説の文章は”情景描写””心理描写”で構成されています。

例えばホテルのロビーで人を待っているといった状況において、そこにあるソファやテーブル、飾られている絵や花、窓から見える景色、周りにいる人々、など背景の説明を行うのが”情景描写”、一方待ち人が現れず”だんだんいらいらしてきた、今回は絶対許さないぞ”といったその人の気持を表現しているのが”心理描写”です。

さて小説に比べ遥かに短い歌詞ですが、やはり”情景描写”と”心理描写”があります。そしてこの観点から、歌を上手く歌うための重要なポイントがあります。それは、原則として”情景描写は淡々と、心理描写は気持ちを入れて歌う”です。

具体例を上げて説明していきましょう。今回は演歌を例に取ります。演歌は”情景描写”と”心理描写”の区別が分かりやすいものが多いのです。

 五木ひろしさん『よこはまたそがれ』の歌詞

曲の前半に単語を羅列するだけで”情景描写”を行っているのが特徴的です。最初の”よこはま”から前半最後の”女の涙”まで、アイテムを並べることでホテルの小部屋の情景を描写しています。その後サビの”あの人は・・・”からは心理描写と捉えてよいでしょう。

この曲の場合、前半の単語一つ一つに気持ちを込めて歌ったらくどいですよね。ですので、前半部分は割と淡々と単語を並べる感じで、そしてサビで一気に気持ちを入れて歌ってください。

 石川さゆりさん『津軽海峡冬景色』の歌詞

まず最初の”上野発の”から”聞いている”までの”情景描写”により、この歌の世界感、背景をしっかり説明しています。

続いての”私も一人”から”泣いていました”の部分も、取り方によっては自身の情景を描写しているとも言えるのですが、少なくとも前半部分のような背景の状況説明ではなく自分自身の事、しかも”泣いている”という感情の動きを語っているので、これは心理描写とも捉えられます。このように明確にどちらかに分けられない場合もありますし、また分ける必要もありません。

そして最後の”ああ・・・”。はい、言わずもがなの心理描写です。この曲のみならず、”ああ・・・”は言葉にならない気持ちが溢れ出たときの表現ですので、ここぞとばかりに思いきり気持ちを込めて歌ってください。決して”あー”と棒読みにならないように。

次回は同じテーマで、演歌以外の曲を取り上げます。また”情景描写は淡々と、心理描写は気持ちを入れて歌う”の例外についても考えてみたいと思います。

歌屋ボーカルスクール
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